メモ

●2005.08.31

・九州の伝承遺産シンポジウム

伝承遺産シンポジウム

去る8月21日に開催された九州の伝承遺産シンポジウムは残念ながら参加者が少なかったのですが、基調講演、各地の伝承遺産報告パネルディスカッション共に中身の濃い討議がなされました。長崎大学後藤恵之輔教授の環境調査報告では普通見ることのできない軍艦島の映像や環境分析を示していました。基調講演をされた東京電機大学の阿久井喜孝名誉教授の「過酷な条件の中で30年間維持メンテナンスをしなかった時、建築がどのように変遷をされて行くかまさに実証的なサンプルである」との指摘は、目から鱗が落ちるようでした。

また、ル・コルビジェが1920年代初頭に提唱した近代建築の五原則(ピロティ、自由な平面、屋上庭園、自由なファサード、ドミノシステム)の全てが軍艦島には揃っていたと言われた時は、まさにそうだと思いました。軍艦島では1918年までに筋コンクリート7階建が2棟、9階建4棟が施工されています。文化庁出身で工学院大学後藤治教授は保存や再生の仕組みや考え方、また世界的な情報を示されて大変参考になるものでした。

各地の伝承遺産報告も大変興味深いものがありました。長谷川雅康鹿児島大教授による鹿児島の尚古集成館、古庄信一郎町会議員による志免炭鉱立坑櫓、幸田亮一熊本学園大学教授による熊本通潤橋、野崎祐一高島活性協議会委員による近代炭鉱発祥の地長崎県高島、荒尾炭鉱のまちファンクラブ理事長中野浩志氏による大牟田の三池炭鉱の紹介がありました。

続くパネルディスカッションは、後藤恵之輔教授のコーディネートで行われました。軍艦島を世界遺産にする会の坂本道徳理事長と長崎シーボルト大学三藤利雄教授、中村享一が参加しました。坂本氏の愛情あふれる軍艦島への想いや三藤教授の経済的な視点での指摘、後藤治教授の役所側の思考組立てなどなど2時間近くにわたって盛り上がった討議がなされました。私は建築にも使命と命があり、そのことを大事にしようと伝えました。癌患者への延命治療のような保存よりは活き活きと生きている時間こそが大切で、残された時間に建築が伝えたいことを見守りながら、発信されている情報を聞く姿勢こそ今の時代が必要であると伝えました。

会場では十分に伝えることができなかったこともあります。古く老いぼれたように見えたり、死んだように見える建築に新しい命を吹き込むことが可能とも考えています。そのことこそが、建築が遺産になれる根拠ではないでしょうか。

シンポジウムちらし

一宇一級建築士事務所
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