■メモ

●2003.07.01

・建築の創り方PM/CM方式による事例

建築家　architects
JIA 2003 / 7 月号掲載記事

コラム「建築家によるリレー企画」　建築家の座標軸　第8回

建築の創り方（良質な建築を求めて）PM/CM方式による事例

中村　享一

建築の創リ方にはいろいろな方法があって良い。現代の日本の建設状況では建設会社が工事を一括で受注し、設計は設計事務所か建設会社に所属する設計部が行っているケースが殆どである。設計事務所が従来のパターンと違う設計施工を行って良いと以前から思っていたのだが、5 月に長崎でPM /CM 方式による工事が完成したので報告する。

発注者の福砂屋とは10 年以上継続して設計を頂いているのではあるが、今回の仕事は特別の感情が働いた。というのは老舗ブランドのイメージを刷新するような位置付けの計画であったからである。土地の相談からプ口ジェクトのスタンス、事業計画、工事の発注方式の選定と様々な意見を求められた。相談の結果、細部までこだわって物造りをする為に、建築、インテリアデザイナー、照明デザイナーを厳選したデザインチームを作ることと、工 事の発注に関して はコンストラクトマネージャー（CM ）を専任して行うCM方式の決定であった。私がプ口ジェクトマネージャー（PM ）と建築設計を兼任という立場をとって発注者と契約を行った。

CM との契釣に関しては私の事務所にCM を契約雇用して事務所が契約の窓口になった。計画からデサイン、施工に閲する事の全ての責任を背負う、設計事務所による設計施工請負である。今は無事完成し発注者にもほぼ、満足していると言っていただいたのでホットしているが、工事が完成、無事引き渡すまでは、かなりのプレッシャーを感じていた。

何故そのような方法を選択したのか、ポイントをまとめてみると。

1.デザインチームについて、照明及びディスプレイまでを含みトータルに洗練されたデザインを要求されたこと。

2 .現場で実際に工事を行う施工者、職人は技術能力を優先して選びたいという発注者の要求。

3.デザインや機構、また仕上げやディテールの部分までもトータルに細かくチェックできる品質管理を要求されたこと。

また、これらの事を解かりやすくまとめ報告協議を行うことであった。

以前にも数件PM / CM 方式を採用し工事を行って来た経験はあったが、そのリスクも知っていたので優秀なCM とチームを組むことができるか が重要なポイントだった。

事業計画が大筋で決まった頃にはデザイナー、CMに業務の依頼を行い、計画の初期の段階から発注者を交えてのデザインコラボレーションを行った。CMはコンセプト策定段階直後から工法計画・施工者技能選定をはじめ忙しく動き始め、現場のノウハウをデザインに反映させ設計協議をスムーズに選べるよう動いた。PMは予算の割り出し分配、また発注者、デザインチームとCMのコミュニケーションなどプロジェクト全体の進行から動きはじめた。

工事は工程に合わせ業者別に契約を行い着工させた。工事が着工しても常にデザインの更新が行われ予算の組み替えや工程の調整が日常的に行われた。今回のデザインの重要な要素であった可動ルーバーなどは予算の調整が難航したので、建築設計チームでプロダクトデザインを行いメーカーなしでオリジナルを作り上げた。

この様な発注方式は完成度の高い建築を造ることが可能なやり方であると思う。ただし発注者の建築の知識や経験が重要なチェックポイントである。また、問題点も多くある。CM方式による工事の発注は保険制度が立ち遅れているので慎重な対応が必要である。仮設計画や足場計画の策定、全体の安全計画や施工計画を誰が行い責任はどうするのか。事故等が発生した時の対策費用の負担など安全に関しての問題は改善される必要がある。

手作りにこだわって370年の老舗の建物は要求された内容をクリアーして無事に完成した。建築が本来持っている力を引き出すことができたプロジェクトであったと思っている。

発注者：福砂屋
プロジェクトメンバー：PM・中村享一　CM・村上正義
デザイナー：建築・中村享一　インテリア・藤江和子　照明・面出薫

一宇一級建築士事務所
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